ヘイトスピーチ 表現の自由はどこまで認められるか(エリック・ブライシュ[著]、明戸隆浩( @takakedo ),池田和弘,河村賢,小宮友根,鶴見太郎,山本武秀(翻訳)

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★背景、最終的な感想

昨今、日本でもヘイトスピーチ(のデモや物的危害を加える行為)とそれに対するカウンター活動が話題になっており、さらに、
国連の人種差別撤廃委員会や国連人権規約委員会もヘイトスピーチへの厳しい対応を相次いで求めている。
ヘイトスピーチ:起訴含め刑事捜査を日本に勧告 国連委 – 毎日新聞
国連人権委、ヘイトスピーチ禁止を日本に勧告 慰安婦問題は「国家責任認めて謝罪を」(huffingtonpostより)

という背景で、少しむずかしい書籍であるのは承知で読んだ。とりあえず読んだ、というのが正しいかもしれないけれど、
日本においては、ヘイトスピーチ、ヘイトクライム、人種差別禁止に対する取り組みが遅れている、というのが最終的な感想だ。

※国連の人種差別撤廃委員会や国連人権規約委員会が国連そのものではなく、国連の補助的組織に過ぎない、という説明がネットに散見され、その説明はおそらく正しいのだろうけど、だからといって、ヘイトスピーチ等を黙認してよいわけではないのは当然だろう。

★本書の言及範囲について

・本書では訳者の解説でのみ日本の現状について述べられており、原書では、述べられていません。原書では、主にアメリカやヨーロッパ各国(イギリス、ドイツ、フランスなど)の実情が記載されています。

★訳者解説より

◯訳者の解説が全体をまとめている気がしたので、その部分を引用・記載します。※純粋な引用ではなく、私の言葉で言い換えているところもあります。ご了承下さい。
◯ヘイトスピーチ規制
・アメリカ・ほぼ規制なし
・イギリス・制度が整備されている
・フランス・法整備されている、特にホロコースト否定に関する法も制定されている
・ドイツ・早期から刑事規制、ナチズムとの歴史との関連で、ホロコースト否定の禁止も法整備
◯ヘイトクライム法
・アメリカ・先行している、既存の刑事法で規定された量刑に、人種差別的動機があった場合はそこの加重を行う
・イギリス・制度が整備されている
・フランス・制度が整備されている
・ドイツ・消極的、2013年現在未制定
◯人種差別禁止法
・アメリカ・先行している
・イギリス・制度が整備されている→差別禁止法の中にヘイトスピーチ規制を含んでいる。また、人種差別だけでなく、性差別や障害者差別の規程に統合された
・フランス・法整備されており、ヘイトスピーチ規制も含む
・ドイツ・消極的だったが、EU圧力に押され、2006年制定(包括的な差別禁止・人種、エスニック、宗教、イデオロギー、ジェンダー、障がい、年齢、性的指向)
◯訳者解説における日本の現状への言及
・在特会に対する京都朝鮮第一初級学校周辺での差別的街宣活動による授業妨害み対し、人種差別と認定され、罰金と同校付近での街宣禁止(民事訴訟において) ※参考リンク;「朝鮮学校をレイシストが襲撃」(youtube,2009/12/10投稿)
・在日特権のほとんどが、実際には特権ではない
  特別永住資格;在日コリアンが、1952年一方的に日本国籍から外されたという歴史がある
  通名が特権だというが、植民地時代に在日コリアンに対して、創氏改名を迫ったという事実
・日本政府の対応
  国連人種差別撤廃条約(1965年採択、1969年発効)に加入したのが1995年とかなり遅い
  その後も日本はこの条約に対して消極的な姿勢をとり続けている
  人種差別撤廃のための具体的措置、ヘイトスピーチ規制、ヘイトクライム法の制定を求めているが、日本は応じていない、もしくは、留保している
  2013/1日本政府見解;「右留保を撤回し、人種差別思想の流布等に対し、正当な言論までも不当にいしゅくさせる危険を冒してまで処罰立法措置をとることを検討しなければならないほど、現在の日本が人種差別思想の流布や人種差別の煽動が行われている状況にあるとは考えていない」
・参考になるのはアメリカ。ヘイトスペーチ規制は行われていないが、ヘイトクライム法、人種差別禁止法はむしろ他国に先行して制定されている。日本は、3つとも制定されていない。これは「消極的」ではすまされないのではないか?
・カウンター活動は対抗言論にとどまらず、行政や立法へのコミットも含めた動きを生み出している
・本書の翻訳自体もレイシズムの動きに触発された部分が大きい

★気になった点、感想を箇条書きにしました。

本書のあまりに豊富な情報量のため、うまくまとめられませんが、気になった点や感想を箇条書きにすることで、今後の参考資料には出来るのではないかと考えました。
◯感想、気になった点
・表現の自由と反レイシズムを完璧に両立させることは不可能、各国や歴史的背景から、そのトレードオフを探っていくしかない。
・どこまで規制し、どこまでの自由を許すかに関しては、一律に線引できないが、民主的議論等によって、時代、背景に則した、差別防止の法制化を探っていくことは可能
・裁判所のトップダウンよりも(その国、州、市に応じた)立法過程を通じた市民参加によって生成された決定の方が正当性の最も高い結論を得やすい。
・ヘイトスピーチや人種差別団体を厳しく規制することは現実的には出来ない。表現の自由という観点、及び、厳しい規制が地下活動を生み出す危険性をはらんでいるため。※ヘイトスピーチが強く規制されてしまうことが、表現の自由を規制することに繋がり、それが行き過ぎると、ヘイトスピーチ以外の例えば政府に対する不平・不満などの表現も規制されかねない、という解釈もある。
・法制定されてもその執行度合いにも注意を払わなければならない。象徴的な法制度はメッセージを投げかけることはできるが、運用されなければ現場や国民・市民は混乱する。一方で処罰は適正レベルに留める必要がある。暴力を誘発もしくは潜在的な緊張を生み出すような場合には処罰が必要ではないか?単純な表現だけであれば罰金刑や執行猶予付き懲役という選択肢もある。
・ジョン・ロールズ「辞書的な優先性」;

「基本的な諸自由は自由のためにのみ制限されうる」

・アイザイア・バーリン;

「ある個人や集団が自らが望むように生きることを選択する自由の幅は、他の多くの価値(平等、正義、幸福、安全、公共的な秩序などがおそらくはその最もはっきりした例になると思うが)とつねに比較考量されなくてはならない。ゆえに、自由は無制限ではありえないのだ」

・レイシストの自由と折衝してきた自由民主主義の奮闘の歴史
 1・第二次世界大戦以降はレイシズムを処罰する傾向、自由は制限
 2・よりゆっくりとした歩み
 3・アメリカ人は人種差別表現と結社の自由を拡張した。他国とは異なる動き
 4・しかしアメリカは行為の動機として使われる場合は人種差別的意見の自由を縮小する最前線にも立って来た。
 5・両方の立場、価値の間でバランスを取る必要。国によってそのバランスを満たす回答には幅が大きい。
・過去にナチスが支配したドイツが、実は、ヘイトクライムや人種差別に対する法制定に消極的な理由はこれであってるかな?→1990年代の終わりになるまでドイツ市民権を持たない人々は2級市民とみなされていたため、当局はこれらの人々の立場を守らなくてはならないという圧力を感じなかった。左派政権が樹立してから改善の試みはあったものの右派の反対(自由への脅威に基づく。例えば契約に関する個人的自由)、左派内部の見解不一致
・ホロコースト否定をする人たちが存在することに驚いた(歴史修正主義)

★用語について

注釈なき場合、引用、リンクはwikipediaより。また、wikipediaの説明ですので学術的な定義とは異なるかもしれませんがおおよその理解には十分と考え、wikipediaを利用しています。

ヘイトスピーチ・・・人種、宗教、性的志向、性別などの要素に対する憎悪(ヘイト)を表す表現行為
ヘイトクライム・・・憎悪犯罪。人種、民族、宗教、性的指向などに係る特定の属性を有する個人や集団に対する偏見や憎悪が元で引き起こされる暴行等の犯罪行為
レイシズム、レイシスト・・・人種差別。人間を外観的特徴(肌の色など)や民族、国籍などに基づいて区分し、その特定の人々に対して嫌がらせや差別すること。レイシストは差別主義者のこと。
エスニシティ・・・民族性。ある民族が持つ性質・心理的特質・気風・思潮・精神・心性のこと。エスニックは民族の、民族特有の、などの意味。
ジェノサイド・・・一つの人種・民族・国家・宗教などの構成員に対する抹消行為
シオニズム・・・イスラエルの地(パレスチナ)に故郷を再建しよう、あるいはユダヤ教、ユダヤ・イディッシュ・イスラエル文化の復興運動(ルネサンス)を興そうとするユダヤ人の近代的運動。
ムスリム・・・イスラム教徒

★余談

4/25にAmazonより発送のメールが来ているので、ここまでほぼ5ヶ月か〜
元々、とてもむずかしい書籍である上に、全く本読みの時間が割けてなくて、毎回、文脈を思い出しながらなので、余計時間がかかる。
これは今後の人生で改善すべき問題のような気がする。

★書籍情報

ヘイトスピーチ
ヘイトスピーチ 表現の自由はどこまで認められるか
エリック・ブライシュ[著]、明戸隆浩,池田和弘,河村賢,小宮友根,鶴見太郎,山本武秀(翻訳)
明石書店


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